佐野富士子(元横浜国立大学教授・元常葉大学教授)・寺内正典(元法政大学教授)
世界応用言語学会(AILA)の国際大会が1999年に日本で初めて開催されることになったことを受け、大学英語教育学会(JACET)の研究会組織として、1995年7月に本研究会を創設しました。応用言語学、中でも第二言語習得研究が急速に重要性を増した時代にあって、日本にいる研究者たちも第二言語習得について正しく理解する必要性が高まったので、特にどのトピックの研究を深める必要性があるのかを特定するために、月例輪読会を開き、分野の文献を多く読み、日本で行われている英語教育にとってどのような示唆が得られるかを中心にディスカッションを進めました。
I期(1995~2000年)
最初の5年間の目標は、AILA’99でシンポジウムを行うこと、そのための専門知識を高めること、の2点でした。成果は以下の通りです。
1. AILA’99 に向けて3件のシンポジウムを企画し、世界的な第一人者を招聘して以下のテーマで研究の最前線を発表、議論しました。
1) Richard Schmidt, Nick Ellis, & Peter Robinson. ‘Implicit second language learning: Issues and implications’
2) Rebecca Oxford, Anna Uhl Chamot, Andrew Cohen, Osamu Takeuchi, and Matsuo Kimura. ‘ Language learning strategies: Recent
research and applications’
3) Michael Long, Cathy Doughty, and Yasuhiro Shirai. ‘Feedback in second language acquisition’
2. 1995年創設からAILA’99までの研究会会員の学びに使った文献の概要を紹介する資料集を刊行しました。『SLA研究と外国語教育―文献紹介』
(リーベル出版)2000年
II期(2001~2005年)
次の5年間(研究会としての6年目から10年目まで)の目標は、1冊目刊行物『SLA研究と外国語教育―文献紹介』で扱ったトピックの中から語用論的能力を選び、SLAの研究成果と日本の英語教育をいかに融合させることができるかを探ること、SLAの研究成果を広く発信すること、2冊目の刊行を目指してSLAの専門知識をさらに深めること、の3点でした。研究活動の主な成果は以下の3点です。
1. 日本人大学生の語用論的能力に関する研究
2000年の刊行物に載せたテーマの中から語用論を選び、日本人大学生の語用論的能力の実態を調査することになりました。理論を実践に取り入れるには、実際の学習者からデータを収集し、その分析から得られる研究成果に基づくことが必要だからです。国内各地の27大学から2792名の学部生を対象に語用の受容能力を測定し、結果をJACET全国大会(2002年)、IPrA (2003年)、AAAL (2004年)で発表し、2005年にはJACET紀要に成果が掲載されました。(詳細は「研究成果の発表」をご覧ください。)
2. 国内外の研究者による講演会
AILA’99シンポジウムで取り上げたトピックや、月例輪読会を続ける中で新たに興味を深めたトピックについて、Peter Robinson, Anna Uhl Chamot, Gary Barkhuizenを始めとする国内外の高名な研究者を招聘して講演会を開きました。
3. 研究会編著による2冊目の刊行
2000年の刊行物で取り上げたテーマをより発展させるため、その後も月例輪読会を続けて第二言語習得についての理解を深めるとともに、輪読会で扱った文献の中から特に日本の英語教育に示唆が大きいと思われるものをまとめて、2005年に研究会としての2冊目『文献からみる第二言語習得研究』(開拓社)を刊行しました。
III期(2006~2013年)
研究会創設11年目からは、ミッションステートメントである「研究と教育の融合」をさらに進めるため、外国語教育(英語教育)への取入れをさらに強く意識した研究活動を行いました。当初、3冊目の刊行は2010年を目指していましたが、JACET創立50周年記念事業が始まったので、そちらへの参加と協力を優先し、研究会としての3冊目刊行予定は少し延期しました。この8年間の成果は以下のとおりです。
1. 国内外の研究者を招聘し、公開講演会を開催しました。詳細は「研究成果の発表」をご覧ください。
2. 大学英語教育学会の創立50周年を記念する「英語教育学大系」全13巻が刊行されることになり、JACET SLA研究会からは当時の代表、副代表の
ほか、会員3名が第5巻の執筆陣に加わり、2011年に『第二言語習得:SLA研究と外国語教育』(佐野・岡・遊佐・金子 編集. 大修館書店)を刊行しました。
3. 研究会編著による3冊目の刊行
英語を中心とする外国語の指導に示唆がある文献を多く扱い、大学での英語科教育法の授業で教科書としても使える本『第二言語習得と英語科教育法』(開拓社)を2013年に刊行しました。
IV期(2014年以降)
SLAの観点から見た英語教育をどう行うかについて解説を試みた『第二言語習得と英語科教育法』について、英語科の教員になることを目指す大学生が読む教科書としての効果を感じながら、SLAの研究成果の更新を盛り込んだ次の刊行物を望む声が聞こえるようになりました。研究会活動としては、主に次の2点を続けています。
1. 輪読会
2. 公開講演会 詳細は「研究成果の発表」をご覧ください。